今回は、着物と関係のないものですが、綴葉装という製本方法で和装本を作りました。
手製本を作ること自体初めてで、いろいろと調べながら作り、記録したので制作過程をご紹介していきます。
綴葉装で手製本を作ってみたいという方の参考になれば幸いです。
きっかけ
突然ですが私は源氏物語が好きです。
平安時代に書かれた源氏物語は今の時代まで読み継がれ、後世の人によって数多くの二次創作が生まれてきました。
代表的なのが「山路の露」や「雲隠六帖」
これらも読んでみたい!そう思った私は本屋に走り岩波書店の「源氏物語補作 山路の露・雲隠六帖 他二編」を手に取ります。
するとなんということでしょう、注釈はついてたものの現代語訳は無かったのです。
慌てて調べたら現代語訳で売っているものはないみたいでした・・・。
古文が読めない私、注釈と古文辞典を見ながらの翻訳作業をしながらなんとか読み進め、訳したのを書き出しているうちに、現代語訳として通しで読めるようにして、本の形にしたい!と思うようになりました。
せっかく古典作品を本の形にするなら和装本で。それも平安風にしたいな・・・と思い調べ始め、綴葉装にたどり着きました。
綴葉装とは
ちょうど大河ドラマ「光る君へ」でも、中宮彰子様が一条天皇に献上するために、源氏物語の特装本を作るシーンがありました。
この時の本も綴葉装(てつようそう/てっちょうそう)でした!
列帖装(れつじょうそう/れっちょうそう)、とも呼ばれています。
平安時代によく使われていた綴じ方で、中綴じの小冊子をいくつか重ねて、糸で綴じる形です。
どこのページも見開きがパタンと開くのが特徴です。
必要材料
- 本文用紙(今回はA4用紙を半分に折った後、縦4㎝横1㎝で裁断 )
- 表紙用の紙(本文サイズ+縦横3㎝)
- 表紙の裏に貼る厚紙(本文サイズ-縦横1㎝)
- 綴じる用の糸(今回は刺繍糸)
- のり
- はさみ
- ペーパーカッター(定規とカッターで代用可)
- 定規
本文ページを用意する
今回は、PCに打ち込んだ原稿を印刷して本文ページにしたいので、少し複雑です。
原稿などなく、白紙を本文ページにしてノートのようにしたい場合は、複数枚の紙を半分に折って中綴じの小冊子を作り、それを奇数冊用意すれば準備完了です。
(以下は原稿をどう印刷していくかの過程なので、飛ばしてOKです。)
糸だけで綴じるためどうしても強度は弱めです。
一冊あたりに重ねる紙は2~3枚で少なめに!
製作イメージ
綴葉装は中綴じ本を複数重ねるという特殊な製本になっています。
中綴じ本を作ったことのある方ならイメージがすぐつくと思いますが、中綴じ本は印刷の時、ページの順番を考えなくてはいけません。
ページの構造が複雑なので、本来綴葉装は初めに製本してから書き込んでいくようです。
「光る君へ」でも製本して仮止めしてから本文を書いてもらい、あとで裁断、製本しなおしていました。
しかし、今回は原稿を印刷したいので、頑張ってどう印刷していけばいいか考えました。
その時のメモです。
重ねる小冊子は奇数にする必要があるので、今回5冊にしました。
完成した原稿のページ数を鑑みて、表紙と背表紙をつける➀番目と⑤番目だけ8ページ(紙は2枚)、真ん中の②③④番目は12ページ(紙は3枚)にしました。トータル52ページです。
4の倍数にしかなりませんので、決めたページ数に合わせて原稿を微調整しています。
文字サイズや余白を調整してページ数を合わせました。
コンビニで小冊子印刷をする
コンビニ印刷で、中綴じで小冊子をつくるのに、自動で適した面付けをして印刷してくれる機能があります。
セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートの大手三社はどこも対応しているようです。
原稿ファイルを用意してこの機能を使って印刷すれば、半分に折って留めるだけで中綴じ本が作れてしまうのです!
今回はこのコンビニの小冊子印刷機能を使って原稿を印刷しました。
小さい小冊子を重ねていく形になりますので、各小冊子ごとにファイルを用意します。
PDFファイルに出力する際に、
- ➀→1~8p
- ②→9~20p
という風にページを指定して出力し、➀~⑤のpdfの原稿ファイルを用意します。
これをUSBメモリに移してコンビニの印刷機に持っていきます。(ネットプリントもできますがメモリで持って行った方が安くすみます。)
小冊子印刷を選択し、➀~⑤各ファイルを小冊子印刷しました。
各冊子を半分に折って本の形にして並べます。
ページが準備出来ました。いよいよ製本していきます!
製本
本文ページが準備出来ましたので、製本作業に取り掛かります。
綴葉装の製本方法に関していろいろネットで調べましたが、なかなか作り方を一通り解説しているものを見つけられなかったので、本を探しました。
スタジオタッククリエイティブ出版の「いちばんわかる手製本レッスン―手でつくる本と基本技法」を参考に製本していきました。
裁断
端を裁断し揃えていきます。
今回私はより古書っぽく、正方形に近い形にしたかったので裁断しましたが、その必要がなければ飛ばしても大丈夫です。
ただ、中綴じはどうしても紙のズレが生じますので、裁断した方が綺麗なのは確かです。
源氏物語の写本はいくつかありますが、今の本のように縦長でなく、正方形に近い形の印象が強かったので、上下を大きめに裁断して正方形に近い形にしていきます。
端をそろえるために左端の所も1㎝裁断します。
こちらはダイソーのペーパーカッター(330円のもの)を使用しています。メモリがついているのでそれに合わせて切っています。
間に合わせで購入しましたがかなり便利でした。
なかったら定規とカッターで切りましょう。
上下を2㎝ずつ裁断します。
(これに合わせて原稿は上下に余白を多くとっています。)
できました。
5冊分同じように裁断しました。
穴をあける
綴葉装は糸で綴じていきますので、糸を通すための穴をあけていきます。
縦の長さを測ります。
穴は四か所開けていきます。
穴は上下から縦の1/3の長さのところ、上下から先ほどの穴までの半分の所に開けます。
しるしに合わせてカッターで切り目を入れていきます。
私は何かと便利なので工作用紙を使っていますが、距離をメモっといて定規で合わせて切っていってもOKです。
折っているのを開いて、一番内側にまで切りこみが入っているか確認します。
それを目印に目打ちか針で穴を通しておきます。
これを5冊分行います。
出来ました。
重ねた時に揃っていればバッチリです!
表紙を作る
次に、表紙を作っていきます。
今回は、日本橋の「榛原」さんで購入した千代紙を使用しました。
本文サイズより縦横3㎝大きく切ったものを二枚用意します。
本文ページにつけていきます。
➀と⑤の、表紙と反対側の最後のページに5㎜ほど被せて、のりづけします。
しっかり乾いたら、残りの辺を折ります。
この時隅を斜めに切り落としておくと綺麗に折りたたむことができます。
折ったところも糊付けします。
各辺5㎜ずつ小さく切った厚紙をのりで貼り付けます。
表紙の完成です!
糸で綴じる
いよいよ糸で綴じていきます!
今回糸は刺繍糸を二本取りにしました。
中心から左側2つの穴、右側2つの穴と2回に分けて綴じていきますので、2本用意します。
今回面倒くさがって、左側と右側同時に綴じていっています。
同時にやると締めながら綴じられるので最後の調整が楽というメリットもあります。
文章で説明しているのは、左半分に対する綴じ方の説明で、右側は線対称にして糸を通していってください。
まず小冊子を、折り目側が手前に来るように並べます。一番上が表紙になります。
スタート地点は真ん中の小冊子の開いたところから。今回は③の開いたページです。
左から2番目の穴にまず通します。
糸の端は20㎝程度出しておきます。後で結ぶので余裕を持っておいた方がいいです。
抜けないように軽く留めておきます。
開いている奥側のページを手前に倒し、④の同じ位置(左から2番目)の穴に通します。
通したら④の小冊子を開いて外側の隣(1番左)の穴に通します。
今度は④の奥側のページを手前に倒して、⑤の同じ位置(1番左)の穴に通します。
通したら⑤の小冊子を開いて内側の隣(左から2番目)の穴に通します。
⑤の手前のページを奥に倒し、4⃣の同じ位置(左から2番目)の穴に通します。
④の小冊子を開いて外側の隣(1番左)の穴に通します。
➀の手前のページを奥に倒し、③の同じ位置(1番左)の穴に通します。
折っていて別の小冊子に通す時は同じ位置の穴、開いたら隣の穴にひたすら順番に通していく感じです。
最初は訳分かんね・・・って感じですが、やってみると感覚がわかると思います。
最初の③の真ん中のページに戻ってきました。
始めの穴(左から2番目)の穴に通したら、反対側(➀②側)も同じように糸を通していきます。
また最初のページに戻ってきました。
糸を引っ張って締め、調節します。
十分締まったら、左側、右側、各2本をかたむすびで結んで、結び目を真ん中に寄せます。
緩まないよう引っ張りながら、左右の二本をまとめて持ち、かたむすびで結びます。
緩まないように2回結びます。
残った糸を処理します。
下写真のように、糸をくぐらせて、結び目を作ります。
2番目の穴に結び目が入るように、目打ちや針を当てて引っ張ります。
余った糸を切ったら完成です!
無事本の形になりました。
題名をつける
和装本は大体表紙に細長い和紙を貼ってそこに題名を書いています。
今回もその形にしていきます。
和紙に題名を筆ペンで書きました。
源氏物語のタイトルはひらがなで書いているイメージがあったのでひらがなで書きました。
色々見てみたら漢字のものも結構ありました。
題名は左上につけているものも多いのですが、この正方形に近い形だと真ん中についているイメージがあったので、真ん中につけました。
普通のスティックのりで貼っています。
乾いたら完成です!
完成
遂に完成しました!
自分で訳し、自分で印刷して製本した、自分のためだけの「山路の露」です!
背はこのような感じで、綴じる糸が4本見えます。
紙と合わせて糸の色を考えるのも楽しいです!
どこを開いても、水平にパタンと開きます。
1⃣と5⃣の、表紙・裏表紙を貼ったところはこのように少し見えます。
これで紙の本で現代語訳の「山路の露」が通しで読めます!
翻訳から打ち込み、紙選び、製本と完成までかなり時間がかかりましたが、その分感無量です!
おわり
以上、綴葉装の製本過程でした。
初めての手製本、それも和装本の中でも特殊な綴葉装で試行錯誤しながらになりましたが、とても楽しかったです!
一番苦労したのが本文の原稿づくりでした。ページ数やどう印刷していくか・・・。
小冊子印刷機能のおかげで面付が自動でできましたので印刷自体は非常に楽でしたが、自分のコピー機で印刷するとなると面付も自分で行うのでかなり大変そうです。
自分のコピー機でやると紙を自由に変えられて良いのですが・・・!
本文用紙を和紙にするとかもやってみたいですね。
長くなってしまいましたが、本づくりの参考になりましたら幸いです。