こんにちは、しらうめねずです。
この記事では、アンティークの銘仙着物を、悉皆屋さんに洗い張りに出した時の体験談をつらつらと書いています。
アンティーク着物を洗い張りに出したいと思っている方、洗い張りの流れを知りたい方に少し参考になると思いますので、お付き合いいただけますと嬉しいです。
序:洗い張りを考える
素敵な銘仙着物を手に入れた
アンティーク着物が欲しくてネットオークションをパトロールしていたある日のこと。
運命の出会いをしました。
薔薇が大胆に配置された美しい銘仙が目に入りました。
サイズは裄が少し小さいくらい、身丈十分、袖丈がアンティークらしく優雅に長く、エレガントな美しい銘仙でした。
シミはあるものの地が濃いためそれほど目立ちません。
一つ懸念点があるとすれば、裏地の状態が悪かったこと。

胴裏と八掛が木綿地でシミや虫食いが目立ちました。

ま、見えないところだからいいか~
「むしろ木綿地なんて昔日常着として銘仙が着られていた証だわ!」なんて気分が上がり落札しました。
幸い競争者がほぼいなく、五千円程度で落札できたのでした。

こんな素敵でサイズが合う銘仙が安価で!ラッキー♪
裏地の弱さに洗い張りを考える
届いてから早速着始めました。
確かに裏地の状態は悪いけれど、着れないほどではありません。
しばらくはそのまま気にせず着ていて、お気に入りの一枚になりました。

やっぱり銘仙はいいわ~♪
しかしずっと着ていると、生地が弱ってくすんだ八掛が裾からちらりと見えるのが気になるようになってきました。
八掛は基本見えないところですし、歩いてて多少見えるにしても、間近でじっと見ない限り木綿地の状態の悪いものとはわからないでしょう。
しかし、こういうのは自分が気になり始めると、気になってしまうもので、裏地を変えたいなと思い始めたのです。

裏地を新しくすれば見えても綺麗だし、着物自体も丈夫になるかも?
また裾のあたりが若干袋になっているのも気になりました。
袋になるとは、表地と裏地のつり合いが取れずにたるんでしまっていることです。
表地がちょっとぷかぷかと浮いてたるんでいる感じがあって、そこも気になり始めたのです。
これらを解決するためには、洗い張りに出すのがいいのでは・・・と思い始めました。
洗い張りとは?
洗い張りとは、着物を一度ほどいて反物の状態に戻してから水洗いすることです。
水洗いでしっかりと汚れを落とし、板などのしっかりと張って仕上げをするのでシワも綺麗になり風合いが蘇るのです。
一度反物の状態に戻すので、洗い終わった後はまた着物の形に仕立て直すので別途お仕立て代もかかります。
裏地を新しくするとなると、胴裏と八掛を用意する必要もあり、そちらの布代もかかります。
そのため費用が高くなるのでした。

せっかく安く買えたのにすごいお金かかる・・・
買った値段よりもはるかに高いお金がかかります。
そのお金があれば、そこそこ状態のいいアンティーク着物も数枚買えたと思います。

それでも、この薔薇の銘仙を蘇らせたい!
この銘仙が好きだからこそ、お金をかけてでも洗い張りをしてきれいにしたいと思いました。
破:洗い張りに出す
悉皆屋さんを探す
以前、アンティークの反物をお仕立てしたときは呉服屋さんにお願いしました。
洗い張りは悉皆屋さんに!ってことは知っていたので、今回は悉皆屋さんを探しました。

後で知ったのですがお仕立てしたとこの呉服屋さんでも洗い張りを受け付けていました。
呉服屋さんで探してもあると思います。
その時は洗い張り=悉皆屋さんと思ってて悉皆屋さんを探してました。
直接持ち込んで相談したいので家からいける範囲で、料金表がHPに書かれていてざっくりでも費用がわかるところを選びました。
HPから予約をしました。その時にアンティークものであることをお伝えしました。

洗い張りをお願いします。
銘仙で古いもののようなのですが・・・

銘仙の着物は繊維が弱っていて染み抜きの薬品に耐えられないものもあります。
一度見ないと何とも言えませんので、お預かりの上確認させてください。
アンティークの反物を出した時と同じような返答でした。
アンティークのものはお手入れに耐えられれず、出来ないこともあるようです。

今回も大丈夫だといいな・・・ドキドキ
悉皆屋さんに行く
当日着物を風呂敷に包んで行きました。
早速着物を見ていただきます。

これは結構古そうですね・・・
必要に応じて見えない部分でテストなどして確認させていただく場合があるかもしれません。

わかりました!
とりあえず確認しながら洗い張りで進めていただく形に。
仕立てる時のサイズや、シミ抜きをどれくらい行うか確認します。

古いものですのでシミを完全に抜くのは難しいと思われます

シミはそこまで気にしてないので、出来る範囲で大丈夫です!
サイズは元と同じサイズでお願いしました。
場合によっては縫込みをして小さめになるかもしれないと説明を受けました。
裏地を選ぶ
胴裏と八掛を持っていなかったので、お店で用意していただきます。
どちらも正絹のもので、八掛は見本を見せていただいて色を選びました。
もとは木綿のオレンジがかった色でした(経年劣化で黄変しただけで白だったのかも)が、薔薇の色に似た紅色にしました。

これで八掛が見えても可愛いぞ~♪
納期は半年程度で、なにかあったら連絡していただくことに。
着物を預けてその日は終了となりました。
急:完成したものを受け取る
経過報告を受ける
預けてから数か月たったころ、連絡がきました。

着物は裾の擦り切れや生地弱りがあるので、縫いこんでお仕立てしていく予定です。
裾がだいぶ擦り切れてるので身丈がと特に4㎝ほど小さくなりそうです。
袖丈を短くして身丈を伸ばすことも出来ますが・・・

身丈は多少小さくなってもいいので、袖丈はそのままでお願いします

承知しました。
このお着物はどうも二回以上の洗い張りを経ているようです。
解いてみると中で調整されていて、生地の変色なども見られました。
こちらで調整して仕立てますので一任していただければと思います。

わかりました、よろしくお願いします!
二回以上も洗い張りをしていたなんて、元の持ち主に大切に着られていたんだなあと感動しました。
他にも穴が開いている部分の補修方法をどうするかなど、写真付きで経過の報告と相談をいただき、丁寧に手間をかけていただいていることが伝わってきて嬉しく思いました。
完成品を受け取る
予定通り預けてから半年たったころに完成した連絡を受けました。
直接行きたかったのですが、予定の都合がつかず、配送していただくことにしました。
配達日時の指定もしていただいて受け取ります。
薄くて長い箱が届き、開けるとたとう紙に包まれていました。

どんなふうになっているのかな、ドキドキ・・・


し、新品みたい~!
胴裏と八掛は新品の正絹のものに替えられ、裾の袋になっているところは解消されています。
洗い張りのおかげか表の布もピンと張ってシワやたるみもなくなり、反物を仕立ててもらった時と同じように、まるで新品のようにきれいな着物に仕立て上げられていました。
シミは消えていませんでしたが、出す前より薄くなっており大分目立たなくなっていました。
衿の部分は、もともと別の黒い布がつけられていて、どうも布の不足部分にいろいろな生地でハギを入れていたそうです。

前の持ち主の方の工夫が見えます。
大切に着られていたんだなぁ・・・
今回、こちらの足し布も替えていただき、新しい木綿の黒い生地を当てていただきました。

ここまできれいになるなんて、大満足!
かかった費用
洗い張り代+お仕立て代+胴裏代+八掛代+別布をつける、補修をするなど特別工程費=10万円弱だったと思います。
洗い張り代とお仕立て代はHPに記載されていた通りで、胴裏代、八掛代は以前反物をお仕立てした時とそんなに変わりませんでした。
特別工程費もあれだけ手間をかけていただいた割にそれほど多くなかったので、予算内でした。

手痛い出費・・・でも悔いなし!
替え袖を縫い付けた
この着物も袖丈が長いので、専用の替え袖を着物に直接付けました。
洗い張りに出す前から作ってつけていて、幸い袖丈も袖幅もサイズの変更なく帰ってきたのでそれをそのまま付けました。
裏地は新品なので強度の心配なく安心して縫い付けられました。
これで襦袢の心配もなくいつでも簡単に着られます!
まとめ
以上が、私がアンティーク着物を洗い張りに出した時の流れになります。
かかった金額は10万円近く・・・買った金額よりはるかに高く、このお金があれば他のアンティーク着物も何枚か買えたでしょう。
それでも、この薔薇の銘仙は本当にお気に入りの1枚ですので、お金をかけて洗い張りに出してよかったと思っています。
また、洗い張りに出したことで、この着物が今までも洗い張りを複数回経て、生地の足りない部分も工夫して仕立てられていたことを知りました。
元々の裏地も木綿地だったので、きっと前の持ち主の方は日常的にこの着物を着ていて、大切にお手入れをしていたんだと思います。
この着物の歴史と持ち主の想いも受け取ったような心地がして、もっと着物を大切にして残していこうと思いました。
着物の良さはお手入れをきちんとすれば長く長く着続けられるところだと思います。
その凄さをこの一件を通して実感したのでした。

本当に、やってよかった!